創作小説公開場所:concerto

バックアップ感覚で小説をアップロードしていきます。

[執筆状況](2023年12月)

次回更新*「暇を持て余す妖精たちの」第5話…2024年上旬予定。

110話までの内容で書籍作成予定。編集作業中。(2023年5月~)

04.恋路(2)

自席で書類仕事をしているギアーの元へ、つかつかと一直線に迫る。受け持つ学年も科目も違うこともあり、就業中にパルティナがギアーに接近することは少ない。険しい表情でやってきたパルティナを、ギアーは物珍しげに見上げた。 「どうしました、これから一…

03.恋路(1)

当初こそ一年後の未来に一抹の不安と恐れを抱えていたパルティナだったが、それは瞬く間に薄れていった。セレナーデにとっては決して初の経験ではないものの、教師という職の業務量と慌ただしさにより「セレナーデ」の思考は日々「パルティナ」の仕事に押し…

02.着任

スズライトは古い伝統を重んじる国である。他国ではとうの昔に廃れた魔術の力を現在も行使し、その源となる自然を守り、そこに棲まう妖精の加護を信じている。 元来、魔術とは人間に制御できるものではなかった。無秩序で、定められた法則がなかった。その理…

01.遊び

かつて世界は一度壊れた。 ある一つの文明が滅び、人の世は根底から覆された。 だが世界は、その理を作り変えられて息を吹き返した。 新たな理を生み出した者たちは、ある者は始祖の大魔導士として後世へ長く語り継がれ、ある者たちは始まりの三賢者として星…

番外14.あの日のマリ ~無知な少女~

娘の旅立ちは、胸に思い描いていたそのときよりもずっと早くに訪れました。 ザルドの森を抜けて、緩やかな坂を道なりに東へ下った先に、ウィードリードという町があります。王都ヴィオリダのような華々しさや国内最大規模の港町イリンレのような美麗さはない…

番外13.あの日のティーナ ~心に根差すもの/日没の先~

暖かい春の日。 来店の瞬間から、わたしは彼女たちに注目していた。 スズライト魔法学校のセーラー服を着た二人組。わたしと同じくらいの年の女の子たち。二人は窓際のテーブル席に向かい合って座った。 業務の合間に、横のテーブルを片付けるフリをしてそれ…

番外12.とある日のルベリー

学校の敷地内を、当てもなく彷徨う。 声が聞こえない場所を探していた。 階段の下の空きスペースは身を隠せる場所の一つだけど、人通りがあると隠れていても意味がない。誰かが一人でも傍を通れば、その「声」は勝手に私の中へ流れ込んでくる。大抵は他愛の…

番外11.とある日のリゼ

裏口の扉から外に出ると、夕方なのに建物の隙間からカッと日差しが照り付けてきた。思わずキャップ帽の上から手をかざす。 「リゼちゃん、お疲れ様」 後ろから出てきた同僚の子が、明るく話しかけてきた。 夏季連休の間だけ、アタシと同じように短期バイトで…

番外10.キラの誕生日

別に期待なんかしてなかった。祝われたいなんて子供じみた気持ち、オレにはない。 爺さんが校長をしている学校に入学し、生まれ育った家を出て、学生寮に入った。 ホールケーキを囲み、明かりの消えた部屋でロウソクの火を消して、プレゼントをもらって家族…

番外09.メアリーの手紙

――キラさんへ ――先日は家までお越しいただいて、ありがとうございました。 ――この頃は気温が落ち着いて、過ごしやすくなってきましたね。今年の夏も終わりが近いのかもしれません。 ――私たちには夏休みというものがありませんが、学校のお休みも、あともう少…

番外08.あの日のエレナ ~太陽の君~

学園祭当日の最後に発表する予定のグループがステージに上がり、リハーサルを始めた。わたしは講堂の壁に寄りかかって時計を一瞥し、その開始から終了までの時間を密かに計測する。先にリハーサルを終えてたむろしている生徒たちには、司会進行用の台本を読…

番外07.スティンヴの花束

このぼくが本気で手を貸したのだから、一位になって当然だ。 華々しい表彰の場に出る代表者を薦められ、それも引き受けた。この勝利の立役者がぼくだということはクラスのメンバーも理解しているらしい。 ぼくの完璧な執事らしい着こなしと立ち振る舞いが評…

番外06.ネフィリーの後夜祭

キャンプファイアを中心に照らされて、グラウンドは楽しげに輝いている。学園祭最後の催しであるフォークダンスがもうすぐ始まるところで、炎の周囲には生徒たちの輪が作られていた。 私はその輪の手前でためらいを覚えて、クラスの皆と別れた。横に曲がり、…

110.宴の終わりと約束の時

キラと共に校庭に出たときは、既にフォークダンスが始まった後でした。グラウンドの中央に揺らめく大きな炎を囲んで、二人ずつペアになった生徒たちの輪がゆっくりと回っています。辺りの屋台は片付けられていました。 炎の明かりの輪の外側にも、小さなラン…

109.絡みゆく糸(2)

取り残された私は、しばらくそのまま立ち尽くしていました。 何と言えばよかったのだろうと後悔に苛まれながら、校舎一階へ降りる階段の前をのろのろと通り過ぎます。情けないことに、これだけ話を聞いても、彼の心を苦しめるものが目に見えていても、彼のた…

108.絡みゆく糸(1)

この後に後夜祭が控えていたためか、校内の片付けはサクサクと滞りなく進んでいきます。 学園祭の形跡がなくなっていく校舎を見ていくうちに、私は少々感傷的な気分になりました。段ボールの看板を片付けに運んでいる間も、どことなく切ない気持ちでした。 …

107.夢のあとに

閉会式が終わり、生徒たちが各自の教室へ向かいます。この間、花束を抱えたミリーは列近くのクラスメイトたちにずっと囲まれていました。 教室へ入ってすぐ、受付の机の裏にある沢山のプレゼントを見下ろし、笑顔で話しながら戻ってきたミリーは足を止めます…

106.gift&blessing(8)

ステージの中央で足を止める。 歌い終えてからずっと体中が熱くて汗も流れたままだけど、晴れやかな気分だ。 両手で胸を押さえて息を整え、ワタシの言葉を待っているみんなをぐるりと見渡す。 ワタシは、胸の中の想いを打ち明けた。 まず、ワタシのために時…

105.gift&blessing(7)

確認を取りつつ、リハーサル通りの開始位置に立つ。エレナはステージ袖へ去っていった。 照明の落ちた広いステージの中央に一人。 騒めいていた講堂の中が、徐々に静まっていくのがわかる。 閉じている垂れ幕の向こうのみんなは、ここにワタシが立っていると…

104.gift&blessing(6)

レルズ君が去った後も、しばらく教室の光景を見ることができた。 会いに来てくれたみんなの笑顔と応援の言葉、そうしたものから溢れ出すエネルギーが、パリアンさんの眼を通してワタシに伝わってくる。 時々、差し入れも手渡されていた。何のためらいもなく…

103.gift&blessing(5)

職員室の前まで戻ってきた。手前で立ち止まる。 ギアー先生、いるかな。また見つかってしまったら、次は声をかけてくるかも。もしそうなったら何て答えよう……。 ドキドキと緊張しながら、開けっぱなしになっている扉の向こうを覗き見る。 先生たちもお昼休み…

102.gift&blessing(4)

昇降口の周辺に人が密集していたから、ワタシはその中に紛れ込んだ。 角を曲がる前に振り向いて確認したけど、ギアー先生は追ってきていない。多分、職員室に入ったんだと思う。ワタシのことを他の先生に聞いたりしてないといいなぁ……。 気を取り直し、外の…

101.gift&blessing(3)

クラス出し物の手伝いは、パリアンさんに代わりに行ってもらう。ワタシ自身はこのスタジオに残り、本番前の最後の練習を続ける。そうする形で、話は決まった。 当番の内容を伝えながら、ワタシはもう一つだけ重ねてお願いする。 「シズクちゃんっていう女の…

100.gift&blessing(2)

学園祭が幕を開ける。 お昼はクラスでお仕事。その後から、ライブの準備を始める計画だ。 エレナはクラスの手伝いを抜けてもいいと言ってくれたけど、そこまで迷惑をかけるわけにはいかないよ。ワタシが出れないとなったら大きく予定が狂うし、みんなから間…

99.gift&blessing(1)

* * * 水滴の滴る髪を首にかけたタオルで拭きながら、浴室を出た。 花の刺繡が入ったカーテンと窓を片側だけ少し開ける。湯気でほかほかしている腕や脚に涼やかな夜風が当たって心地良い。 ベッドに腰かけ、夜空を見上げる。 星の綺麗な夜だった。 明日の…

98.あなたは、わたしの太陽でした。(2)

激しくピカピカと回転していたライトは真ん中で静止し、ミリーを白く照らしています。ミリーは胸に両手を当てて、静かに呼吸を整えていました。 観客たちはその場で固唾を飲んで彼女の言葉を待っています。 ミリーは胸の上でギュッと手を握り、真剣な眼差し…

97.あなたは、わたしの太陽でした。(1)

皆が自然と口をつぐみ、暗い講堂に静寂が訪れます。 全体がすっかりシンと静まり返るのを待って、ベルが鳴らされました。 閉め切られていた垂れ幕が上がり、ステージが見えてきます。 最初に声を洩らしたのは、列の先頭付近に並ぶ生徒たち。 幕の向こうの闇…

96.星々が集う(2)

発表の合間で、ライールが席の前まで戻ってきました。姉の友人の女子生徒ばかりになった状況に気まずそうです。 「ね、姉さん。僕はそろそろ帰るね」 「あっ、待って……えっと……」 「……どうかしたの? 一人でも平気だよ。迷子になる歳じゃないし、待ち合わせ…

95.星々が集う(1)

校舎から講堂へ向かう連絡通路へ出た私は、さんさんと降り注ぐ太陽の日差しを浴びました。 開け放たれた両開きの扉から歓声が聞こえてきます。私が講堂に入ったのはちょうど、クラスメイトを含む男子五人のロックバンドが登壇し始めたときだったようです。 …

94.トワイライト(2)

ネフィリーが去っていき、程なくしてティーナも、迷子捜しは任せてと言い残していなくなりました。 シザーはつかつかと中へ入ってミリーを呼び止め、預かったジュースをぶっきらぼうに突き出します。 「おい」 「ん?」 「ネフィリーから」 目を逸らしてそれ…