創作小説公開場所:concerto

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[執筆状況](2023年12月)

次回更新*「暇を持て余す妖精たちの」第5話…2024年上旬予定。

110話までの内容で書籍作成予定。編集作業中。(2023年5月~)

29.学園祭とクラスメイト

 夏休みが間近に迫った季節。それだけでも学生たちは浮足立つものでありますが、加えて学園祭へ向けた準備も着々と進められており、校内はますます賑わいを見せていました。
 クラス別ホームルームの時間は春以来のことになります。各クラスが、学園祭に出店する催し物を決めることになっていました。一クラスに一人ずつ学園祭実行委員がおりまして、彼らが黒板の前に立って取り仕切ります。担任教師は教室内にいますが、話し合いや多数決に参加することはありません。パルティナ先生は実行委員の人の席を借りて座っています。傍のネフィリーが何やら聞かれているのが見えました。後で聞いたところ、コミナライトの花壇について話していたそうです。
「何がいいのかなあ。食べ物? それともゲーム?」
 私は近くの席のキラと話しながら、故郷の学校のお祭りを思い出していました。そこではスズライトのように国で定められた教育を行うのではなく、大人たちが有志を募って子供たちに読み書きや計算を教える、そんな教育を今でもしています。そのため、学園祭もあまりに「ローカル」で「アットホーム」だったのです。様々な場所から様々な人が集うような学園祭は、私にとって初めてのものでした。
「向こうでは的当てが好きだったんだ〜。結構難しいけど、盛り上がるよね!」
「こっちでそれやろうとすると、ただの魔法のテストになるな」
「あと、お化け屋敷すっごい怖かったの! お化け役は知り合いの子ばっかりなんだけど、みんな上手で……」
「それ上手いも下手もあるか? ……そういえばうちも毎年どこかは必ずお化け屋敷出すけど、裏で幽霊対策のまじないかけたりとかするらしいな」
「えっ……、で、出るの?」
「知らないけど、よく聞く噂だ。こういう場所での行事には子供の霊が集まりやすいとかなんとか」
「ええっ」
 随分淡々と語っていましたが、幽霊とはこの国では珍しくないものなのでしょうか。それ以上のことは聞かないように、私は話題を変えます。
「夏休みが明けたら次はもう学園祭って、なんか凄く早く感じるね」
「ぼやぼやしてるとすぐ終わるぞ。それ以前にお前、夏休み前の試験大丈夫なのかよ。特に魔法の実技」
 体の向きをずらして座っていたキラが、ちょっと呆れた様子で机に頬杖をつきました。
「今はとりあえず学園祭のこと考えようよ、ね! 頑張るのはそれから!」
「お前な……」
 単純な言い訳は、彼には通用しません。先延ばしにしようとする気持ちも見透かしたように、眉を寄せました。
 同じ頃、隣のギアー先生のクラスでも話し合いをしています。委員を務めるのはエレナです。イベント好きな彼女にはうってつけの役職であるでしょう。
「後で発表してもらうから、色々考えてみて。そうね、五分くらい。自由に相談してていいわ」
 そう声をかけると、クラスメイトたちは近くの者同士で顔を合わせて口々に話し出しました。ミリーは隣の席の女の子に声をかけ、彼女もまた笑顔で言葉を返します。後ろや前の席の人も、すぐその中に加わっていきました。
 チョークを持ち板書の準備を整えたエレナは、教壇に寄りかかって教室内を眺めます。シザーは相変わらず、口を一本に結び、だるそうに腰かけ、窓際に立つ先生をじっと睨みつけているので、正面から見渡すと一層浮いて見えました。当のギアー先生は至って涼しい顔をし、彼の刺すような視線に気付いているのかいないのか、よくわかりませんけれど。エレナはもう慣れているので何も言わず、別の席へ視線を移します。
 そこでは一人の女の子が、同じように口を閉ざしてぽつんと座っていました。ただその子がシザーと異なっていたのは、俯いて憂鬱な顔をしていること。周囲の席の人たちは皆彼女に背を向けて、他の人と笑顔で話し続けています。彼女はその輪に入ろうとせず、周りも彼女に構おうとする素振りはまるで見せません。
 エレナは密かにその女の子、ルベリーのことを以前から気にかけていました。艶やかで長い黒髪と、琥珀色の優しげな瞳が美しい淑やかな少女。しかしその髪は常に顔を暗く覆い、目も昏く淀んでいます。クラス替え当初こそ周囲は明るく接していましたが、ルベリーの応対はあまり気持ちのよいものではありませんでした。無視、ということも時にはあったようです。たった三十人前後の狭い教室の中ですから、それが全員に知れ渡るまではあっという間だったことでしょう。次第に、ルベリーは明確に孤立するようになりました。
 でもきっと、エレナの他にも気にしている人はいたはずです。少なくとも彼女は――加えて私も――そう信じています。確かにルベリーの態度は人を遠ざけても仕方ないものだったのですが、本当に級友を嫌っているだけであるのなら、あのような表情は浮かべないはずなのです。そのことに気付かないほど、エレナの好きなクラスメイトたちは愚かではないはずなのです。
 だから彼女は、この学園祭をルベリーも含めたクラス全員で成功させようと張り切っていたのでした。

 話し合いの結果、私たちのクラスではゴムボールすくいを、エレナたちのクラスではたこ焼きの出店を開くことに決まりました。
 そしてキラの懸念通り、休み前に行われる定期試験で私はとてもつらい思いをしたのですが……これは本筋と関わりがない上に何よりお恥ずかしい話でありますので、個人的な都合でございますが省かせていただきたいと思います。