33.肝試し〜演技派不良少年の場合〜

 * * *

 洞窟同然のこの坑道はひんやりしていて、ずっと太陽に当たっていた肌に心地良い。それはいいんだが、歩くたびにサンダルと足の間に砂が入ってきてザラザラするな。小石踏まなきゃいいけど。
 足音が規則的に続く。時々、空中に浮かせた火の玉の中で火の粉がパチリと跳ねる。坑道内は思った以上に暗く、この炎が丸く照らしている部分しか見えなかった。
 横を歩くルベリーとの間に二人分ほどの距離があるのが気にかかって、話しかけてみる。
「おーい、あんまり離れると危ないぞ」
「えっ、あ……はい」
 答えてはくれるものの、気まずそうにほとんど近付いてこないし、会話もそこで止まってしまった。ま、仲良くもない男と突然組まされたらそりゃ普通はこうなるよな。体調は本当に平気そうだし、いいか。俺は前に向き直り、また黙って歩いた。
 そもそも、ルベリーと俺に接点は無い。一応同じクラスではあるが、今日まで一度も話したことはなかった。向こうが誰かと口を聞いているところも、ほとんど見たことないな。だけど、陰でコソコソ言われているような気がする、ってことぐらいは、何となく気付いている。
「………」
 多分、エレナが強引に連れてきたのは、あいつなりの思いやりなんだろう。一年の最初の頃に、俺も経験したからわかる。純粋に善意なんだろうが、あの時はマジで困ったわ。もう笑い話だが。
 そういえば、そのことで最近ミリーと何か話したような……。俺が学校とそれ以外で態度分けてることについて――。
「ああ、そうだった!」
「!」
 はっとして、もう一度横を向く。ルベリーの驚いた目とばっちり視線が重なった。
「なあ、俺が普段の様子と違うから変に思ってたろ? 今の方が素だから、何つーか、ビビんなくていいぜ」
 ミリーにはちゃんと説明し忘れたせいで、困惑させたんだったな。危うく同じことを繰り返すところだった。
「いきなりはピンと来ないかもしれねーけど。あと、このことは学校では内緒にしてほしい」
「あの……シザーくんは」
「ん?」
 ところが説明の途中で、ルベリーに遮られる。そういえば、当たり前だけど名前を呼ばれたのも初めてだ。知り合いの殆どは呼び捨てで呼ぶから、君付けなんてされると妙にむずがゆい。
 ルベリーはまだおどおどした様子で、体の前に手を握り合わせている。せっかく身長あるのに、いつも小さく縮こまってるんだよな。顔上げて、もっとシャキッとすれば印象も違ってくるだろうに。俺の勝手な意見はともかく、歩きながら次の言葉が出てくるのを待つ。
 それにしても、肝試しっつってもただ真っ暗な通路を歩くだけじゃ怖くも何ともねーな。正直、幽霊いるって思ってねーし。妖精と同じでさ。実際にこの目で確かめることができるなら話は別だけど。
 足の指の間にまとわりついた砂が徐々に増えてきた。どの辺りまで来たんだろうか。何も起こらない無言状態が続いて退屈になってきた矢先に、頭上でバサバサバサ……と耳障りな音がした。
「ひぁっ」
 隣からか細い悲鳴。
 沈黙。
「………」
 見ると、腹の前にあった両手が口元まで移動している。一瞬目が合ったが、す〜っと反対側へ逸らされた。音の正体は、どうやら一斉に飛び立ったコウモリの群れだったようだ。
「えーと、大丈夫か?」
「………、……うん」
 掠れた声でこくんと頷いて、その拍子にほんのり赤くなった頬が見える。まさか、あんま喋んなかったのは単にここが怖かっただけ?
 今まで、ルベリーのことよくわからない奴だと思ってたけど、接してみれば案外そうでもなかったりすんのかな。やっぱりこっちを見ようとしないが、今はその横顔に近寄りがたさを感じない。
「お、向こうから風が吹いてきてる。出口じゃね?」
 木々の頭と、坑道内に入ったときより暗くなった空も見える。俺らの間で炎が大きく揺れて、フッと消えた。