創作小説公開場所:concerto

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[執筆状況](2023年12月)

次回更新*「暇を持て余す妖精たちの」第5話…2024年上旬予定。

110話までの内容で書籍作成予定。編集作業中。(2023年5月~)

34.肝試し〜前髪メッシュボーイの場合〜

 * * *

 嘘みたいだ。
 ミリーちゃんと二人になる機会が、また訪れるなんて。
「ワタシは二番目か。二番引いた男子は誰ー?」
 そのたった一言を耳にしただけで、心臓が飛び上がった。
「よろしくね、レルズ君♪」
 どうも最近運が良すぎる気がする。もうすぐ死ぬんじゃないのか、俺。
 周りにみんないるし、隠さなきゃならないのに、きっと頬から耳まで真っ赤になっていた。もしくはにやけてた。順番待ちの間もドキドキしっぱなしでいたたまれなかったから、エレナの号令とほぼ同時に突っ込む勢いで洞窟内へ入る。
 涼しげな風に当たったおかげで顔の熱が引いて、少しだけ冷静になれた。落ち着け、落ち着くんだ。一人でテンパってちゃ、前と同じで何も進展しないぞ。
 深呼吸一つ、それから明かりの炎を灯す。隣に目をやると、ミリーちゃんの横顔は紅色の炎と陰影のコントラストでとても綺麗だった。また鼓動が速くなり、慌てて目を逸らす。深呼吸、深呼吸……。
「肝試し、あんまり得意じゃないんだよね。大丈夫かな〜」
 俺をよそに、至っていつも通り明るい彼女。こんなにも緊張してるのは俺だけなんだろう。わかっちゃいたけど、思い知らされると切なくなる。
 だけど、ポジティブに考えれば、この状況は千載一遇のチャンスなんじゃないか?
 こんな至近距離で憧れのアイドルと肩を並べるなんて、普通は絶対に経験できないことだ。しかも、今回エレナは入口の方にいなきゃならないから、後を付けてきていないはず。誰の邪魔も入らない、正真正銘の二人きり。
 せっかくのこの機会、上手く活かせばほんの少しくらいは意識してもらえるようになるんじゃないか?
「レルズ君も苦手?」
「へっ!?」
 そんな下心丸出しで思案していたら、顔を覗き込まれて声が裏返った。困惑と恥ずかしさで耳の先がカッと熱くなる。このザマじゃ無謀かな……と、ちょっと心が折れかけた。
 いや! ここで弱腰になるから俺は変われないんだ!
「大丈夫っす! な、何かあったって、俺に任せてくださいっ!」
 汗も手汗も凄いけど、ぐっと両手を握り自分を奮い立たせる。ミリーちゃんはにっこり笑ってくれた。

「な、ななな何か動いた!?」
「多分それ自分の影じゃないかな?」
「いっ、今の音なんだ!?」
「あ、ネズミ」
「わ―――っ!!」
 ……なんだか、そんな決意してたなんてとても言えない空気。
 一匹の小さなネズミが、可愛い声で「チュー」と鳴きながら俺の足元を走り抜けていった。マジでただの野良ネズミだったらしい。びっくりした……。
 お、俺ってここまでビビリだったっけ? 確かに去年、学祭のお化け屋敷で大声上げすぎてスティンヴに蹴飛ばされたけど。おかしい、こんなはずじゃ。
「ミ……ミリーちゃん、大丈夫っすか……」
「いや、うん、ワタシはね」
 息も絶え絶えになりながら、どうにか声をかける。ミリーちゃんは俺の様子に苦笑気味だ。
「なんていうか、君のリアクションが面白くて、こっちが怖がる暇ないよ」
 冗談半分の言葉だったんだろうけど、俺は割と本気でがっくりきて肩を落とした。悪気が無いから、余計に大ダメージだ。情けねえっていうかカッコ悪い……。
 シザーさんだったら、堂々としてて、うろたえたりしなくて、頼りがいあるんだろうな。ミリーちゃんも表には出さないけど、本当はシザーさんとペアになりたかったんだろうな。俺なんて結局大勢いるファンの内の一人で――、……暗い場所で考え込むと駄目だ。ずぶずぶ悪い方に沈んじまう。
 俺がシザーさんみたいな男だったら、こんな思いはしなくて済んだんだろうか。冷えた風が素肌に沁みた。