創作小説公開場所:concerto

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[執筆状況](2023年12月)

次回更新*「暇を持て余す妖精たちの」第5話…2024年上旬予定。

110話までの内容で書籍作成予定。編集作業中。(2023年5月~)

番外01.とある日のエレナ

 空になったアルミ缶。新品の割り箸四組。メモ帳と、カラーマーカー数本。机の上にごろっと並べて、さあ準備は万端!

 開け放った窓から吹き込む淡い風が心地よくて、わたしは目を細めうーんと体を伸ばした。夏の夜は、日中とは全く違う顔を見せてくれる。星がよく見える夜は特に、おまじないをかけるのに最適だ。根拠があるわけではないけど、星の綺麗な夜空は、まるで妖精がわたしたちを見守っているようだから。

 姿勢を正し、フンスと気合を入れる。まずは、明日遊びにいくメンバーの確認からしましょう。この前集まった五人に加えて、ミリーが声をかけたネフィリー、シザーが呼んだスティンヴとレルズ、それにルベリーで、合計九人ね。

 誘ったとき、ルベリーの返事はちょっと曖昧だったけど……ううん、大丈夫、きっと来てくれるわよ。わたしが信じなきゃダメじゃないの。それでも、もしも万一ルベリーが来なかったときはそこにわたしが入ればいいから、始めちゃいましょうか。

 キュートなウサギが欄外にデザインされている、お気に入りのメモ帳にみんなの名前を書いていく。縦に並べて左側は男子、間を空けて右側に女子。その間に境界線を引く。そして、ピンク色のマーカーでスティンヴとネフィリーを結んだ。

 ひとまず、スティンヴはネフィリーとペアで決まりっと。間違ってもルベリーとスティンヴなんて組み合わせにはならないようにしなきゃね……。

 あの二人はニオうわ! 前に花壇で見かけたとき、絶対いい雰囲気だったもの! 特にスティンヴの方が怪しいのよ。今まで一度も、あんな雰囲気見たことないわ。大会の日にわたしの知らないところで何かあったのかしら?

 キラもルミナとペアでいいわね。水色のマーカーで結んで、と。初めは軽い冗談でちょっかいかけてただけなのに、本当に気になってそうな感じがしてきたのよね~。ふふ、からかいすぎちゃったかしら?

 男子を相手にしてるんだっていう意識がルミナはどうも弱いけど、ま、そういう性質の子なのよね、きっと。「キラのことはどう思ってる?」なんて聞いたところで、友達だって笑って言うのが目に浮かぶわ。

 恋に疎いルミナにお堅いキラ。あのまんまじゃ何も進展しそうにないじゃない。わたしみたいに多少強引なお節介焼きが間に入るくらいでちょうどいいのよ、うん。

 それに、本当に好きかどうかは置いといて、キラにとってルミナと一緒にいるのは悪いことじゃないはずだもの。

 以前、キラとネフィリーに元気が無いとルミナから相談を受けたことを思い出す。わたしはあのとき、言われるまでそのことに何も気付かなかった。いつもみんなを気にしているつもりのくせに、肝心なことには気付けなかったんだわ。

 相談を聞いて、後日わたしは自分の目で二人の様子を確かめに行った。一見するといたっていつも通りのようだったけど、ルミナの話を頭に置いてしばらく注意していると、キラの目がふとした瞬間にどこか遠くを見るのにようやくわかった。彼のそんな様子を、わたしは過去にも一度見たことがあったからだ。

 前年度、冬休み明けの教室――キラのお兄さんのソラ先輩が行方不明になったときと同じ顔。彼の傷はまだ癒えていなかった。癒えるはずがなかった。

 クラスが違うから気付かなかった、なんて言い訳にもならない。「甘いお菓子を食べさせよう」などと、遊びのように軽い調子で言ってしまったことをいたく後悔した。

 それで、教わったばかりのおまじないをかけることにしたけど、それも本当に心から二人を想っての行動だったのかしら? 

 自分の軽薄な発言への後ろめたさ、自分の知識の実践、それだけだったのではないの? と、自らを責める問いかけが頭からまだ消えていない。

 ルミナは、こんな上辺だけのわたしとは違った。本当にその人自身を見て、気が付いて、思いやることができる子。ルミナのそんな性質が、きっとキラの安らぎになってくれるとわたしは思うわ。

 

 ここの二組は他に変えようがないのよね。問題は……この後。

 一旦ペンを置いて軽く背筋を伸ばし、メモを俯瞰する。線の引かれていない名前は、わたし、ルベリー、ミリー、シザー、レルズの五人。

 透明な三角形の檻が見える。

 ……そうよね、こうなることはわかってた。多くの人と関われば関わるほど、何度も対面することになるってことも。初めてじゃない。よくある話だもの。

 もしもこの細工がバレてしまったら、きっとわたしは、両方から責められるのでしょうね。ここに最善の選択があるとすれば、手出しも口出しも一切しないことなんだわ。

 だけど、そうしたら?

 記憶の中の、弱々しい言葉を発する彼の姿が蘇った。

 あのバカな男の子は、一人で勝手に諦めてしまうに違いない。自分の好きな人が幸せならそこに自分はいなくても満足だ、と心に思い込ませて、鍵を掛けてしまう。そうに決まってる。

 そうさせてはいけない。誰の為にもならないのだから。

 ……瞳を閉じて、俯きがちに小さく首を振った。生温い空気が足を撫でていく。

 いいえ、違うわ。これも、都合のいいように彼を理由にしているだけ。わたしのエゴね。

 みんながみんな、望んだままに悲しまず生きることなんて、不可能なのよ。

 でも、それなら、どうやったら幸せになれるのかしら。

 どんな線を引いたら、前に進むことができるのかしら。

 

 割り箸の先端に、それぞれ同じ色を塗って番号を書き込む。黄色は一番、緑が二番、ピンクが三番で水色は四番。書き終えたら二本に割って、空き缶に詰め込んだら、名前を記したメモ帳を隣に並べて置いた。

 これで最後の仕上げになる。

 物体を引き寄せる魔法を、ちょっぴり形を変えて杖に込めた。授業ではまだ習っていない話だけれど、魔法は「形状を変える」ことで一つの基本術から様々な効果へ派生することができる。それを更に複数組み合わせて複雑な魔術を構築したりする。そこまではまだできないけれど、これくらいの応用なら今のわたしでもできるはずだ。

 瞳を閉じて、色、数字、文字の三つに念じる。同じもの同士が引き寄せ合うように。

 パリン、と薄いガラスの割れるような音が頭の中に鳴る。目を開くと、杖から放たれた光が四色のライン上を滑りながら缶の中へと吸い込まれていった。

 成功、かしら? 試しようがないからわからないわね。……だけど、失敗していたとしてもそれほど困ることじゃないか。

 これで終わりにして、もう寝ましょうか。

 

 応援するって言ったのに、ごめんなさい。

 わたしは勝手ね。

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