創作小説公開場所:concerto

バックアップ感覚で小説をアップロードしていきます。

[執筆状況](2023年12月)

次回更新*「暇を持て余す妖精たちの」第5話…2024年上旬予定。

110話までの内容で書籍作成予定。編集作業中。(2023年5月~)

102.gift&blessing(4)

 昇降口の周辺に人が密集していたから、ワタシはその中に紛れ込んだ。

 角を曲がる前に振り向いて確認したけど、ギアー先生は追ってきていない。多分、職員室に入ったんだと思う。ワタシのことを他の先生に聞いたりしてないといいなぁ……。

 気を取り直し、外の方に皆の視線が向かっていたから見に行くと、アイマスクを着けたシズクちゃんが来ていた。ご両親と手を繋いで、実行委員の生徒から案内を受けている。

 つい声をかけに行きそうになったけど、伸ばした腕の袖口を見て今の自分の容姿を思い出し、踏みとどまった。

 シズクちゃんは道を開けてもらいながら、校舎の中をゆっくり進んでいく。話している内容までは聞こえないけど、チラッと見えた口元が綻んでいて安心した。

 さてと、ワタシはお昼ご飯何にしようかな。

 バレッドさんの分も。

 ああは言われたけど……やっぱり何か買っていこう。

 ここから一番近い飲食店は唐揚げのお店だ。定番の人気メニューだからか、お客さんが並んでいる。人数はちょっと多いけど、お昼時真っただ中のこの時間はどこも混んでいるはず。紙コップに入っているから持ち帰ることができるし、ここで買っていくことに決めて列の最後尾に加わる。

 この姿で一人ウロウロするのも抵抗があった。世間では、魔法で別人に化けるのは悪い人が素性を隠すためにすることだという印象を持たれがちだ。実際、昔はそうやって悪事を働こうとした人が結構いたみたい。ワタシが今していることだって似たようなものだ。

 そのせいで現代では術自体が禁止にされかけていて、学校でやり方を教えることはなく、教科書や魔導書にもほとんど記されていない。だから難しくない術だけど使い方を知っている人は少なくなっているんだ、ってパリアンさんが言っていた。

 そんな魔法だから、もし人前でバレたら騒ぎになりかねない。見抜かれることは滅多にないとはいえ、早く戻りたかった。

 前に一度だけ見破られて、ヒヤッとした経験もある。あのときの商店街も、今みたいに沢山の人が近くにいて危なかった。

 ――一体、何の偶然だろう。

 思い出していた矢先、まさにそのときの女の子がワタシの前に現れた。

 反射的に息を飲む。

 彼女はシザーの幼馴染で、確か名前は……ティーナちゃんといったはず。あの日一緒にいた、上品なお嬢様って感じの友達は見当たらない。一人で来ているようだ。

 ティーナちゃんは人が姿を変えていることには気付けても、その本当の姿までは見抜けないみたいだった。

 今は見知った仲だし、ワタシのファンだとも言ってくれたけど、ワタシだって伝わってなきゃ全部意味がない。うぅ、また同じことになっちゃうかも。サインを書いて証明できたあのときと違って、紙とペンも無いし。どうしよう。口だけでワタシだと名乗っても、信じてもらえるかな?

 ティーナちゃんが列を眺めながら近付いてきていた。ワタシの姿もとっくに視界に入っているだろう。

 平静を装い、ひとまず様子を見る。

「えっと、な、並びますか?」

「ああ、いえいえ、行列だなあって見てただけですー」

 何も気にしていない和やかな笑顔が返ってきて、拍子抜けした。

 こちらを訝しむ素振りは一切無い。あっさり列から離れて、校舎の外に出ていく。よくわからないけど、ともあれ一安心だ。

 行き交う人々も、誰もワタシのことは気にしていなかった。これなら当番を代わってくれたパリアンさんの方も大丈夫そう。

 ……理由があっても、みんなを騙しているのには違いないよね。今になって、申し訳なさと後ろめたさに苛まれる。

 ワタシのためを思って教えてくれたパリアンさんには悪いけど、やっぱりワタシ、この魔法のことは好きになれそうにない。これからもなるべく使わないようにしよう、と、内心では意思を固めていた。


 列は着々と前に進んでいって、ワタシの番がやってくる。

 そんなときティーナちゃんが戻ってきて、彼女はなんとシザーを連れていた。

 昇降口で二人が一旦分かれる。靴箱の陰で、ティーナちゃんが杖を持ち出して何か魔法を唱えているのが見えた。

 すぐに杖を引っ込めるとシザーと合流し、その手首を片手で掴んで引っ張り始める。

「もういいだろ、離せよ!」

「駄目。いつ逃げ出すかわかったもんじゃないし」

 シザーはズリズリと引きずられていった。

 さっきのは、一時的に体の力を強くする術を自分にかけていたのかな。抵抗するシザーを一人で引きずっていけるほどの腕力がある子には見えないから。ちょっとズルっぽいし、シザーにはバレたくなかったのかも。

 そこまでして、シザーをどこへ連れて行くつもりなんだろう? ……それと、二人の遠慮のなさは仲良しだからこその言い合いにも見えて、少しだけ心に引っかかりを覚えた。

 ただの幼馴染。仲は良くない。前にティーナちゃん自身からそう聞いている。だけど少なくとも、シザーが女の子へあんな言動をするのは彼女相手以外に見たことがない。気心知れた間柄であるのは確かで、特別な仲と言えなくもないはず。

 彼と言い争いがしたいっていうのは違うけど、羨ましいな、なんて思った。無意識のうちに目で追っていたみたいだった。

 そんなワタシの心の内を知る由もない、そもそも相手がワタシだともわかっていないシザーに睨みつけられていて、ハッとする。慌てて目を逸らし、二人分の唐揚げの会計を済ませて、小走りでその場を離れた。

 気持ちを切り替えないと。

 ……でも、ティーナちゃんとどこへ行くのかは気になるし、ずっと機嫌悪そうだったけど、彼の顔を見れたのはちょっとラッキーだったかも。

 ライブのときも貴方の顔が見れたらいいなぁ、って思うよ。