創作小説公開場所:concerto

バックアップ感覚で小説をアップロードしていきます。

[執筆状況](2023年12月)

次回更新*「暇を持て余す妖精たちの」第5話…2024年上旬予定。

110話までの内容で書籍作成予定。編集作業中。(2023年5月~)

小さな月明かり

59.ハピネス

臨時のロングホームルームが解散になり、キラと少しだけ話をした後、私はすぐに隣のクラスへ向かいました。授業の時間まで僅かな時間しか残っていなかったけれど、向かわずにはいられませんでした。 昨日の黒雲を見てから、私は一度もルベリーの姿を確認して…

58.My Heart(2)

職員室に入ってすぐのところに別の扉があり、小部屋に繋がっていた。以前からこの扉は見ていたけど、中に入るのは初めてだ。古めかしい木の壁と暗さが、校舎の端にひっそりと存在する塔の中の書庫とどことなく雰囲気が似ている。 あの塔は静かで、校舎で唯一…

57.My Heart(1)

* * * 他人と接するのが苦手だったのは、今に始まったことじゃない。昔から、目の前の人が何を思っているのかわからないのが怖かった。その言葉が本当だと信じていいのかわからないのが怖かった。 どうして聞こえるようになっちゃったんだろう。どうして…

56.そこには陽が在り続けるから。

みんなの笑顔と笑い声。ワクワクした感情で満ちた瞳の輝き。チョークが黒板を叩く音。涼やかな風。地を照らす太陽の光と熱気。 教室に戻り、皆と話をしているうちに、私の心は学園祭準備で盛り上がる雰囲気の中へとすっかり引き戻されていました。 エレナが…

55.沈んでも、翳っても、

他人の心の声が聞こえる。聞こえてしまう。少女が一人背負うその重さとは、いったいどれほどのものなのでしょうか。 彼女の力は、目覚めてからまだ半年も経っていませんでした。 ルベリーは元から引っ込み思案で、親しい友人は多くない女の子でした。相手が…

54.Your Voice(3)

「やめようよ、エレナ」 ガタンという物音が、静まり返った教室に鳴り響きます。 席から立ち上がって険しい顔で近付いてくるのは、エレナがクラスでよく行動を共にする友人であるリーンでした。 「ほっといってって、本人が言ってるんだからそれでいいじゃん…

53.Your Voice(2)

パキ、と白いチョークが黒板上で折れて、コロコロと緩やかに転がりました。 そのチョークで文字を書いている途中だったエレナは手を止め、身を屈めてその欠片を拾い上げてから、腕をめいっぱい高く伸ばして続きを書いていきます。 「それでは、後は頼むよエ…

52.Your Voice(1)

「エレナ待って! 私も行くよ!」 ――たったこれだけの言葉。 その二度目を言えていたのなら、何か変わったのかな。 「その気持ちだけでも充分よ。ありがと。ルミナも心配してたってことはちゃんとルベリーにも伝えておくわ!」 くるりと踵を返し、去っていく…

51.兆し

「聖なる森に棲まいし我らが守り神よ、今日も絶えぬ加護に謹んで感謝いたします」 学校の敷地の中央に位置する講堂で、教壇上の教頭先生が祈りの句を述べます。始業式はお祈りから始まりました。周りの生徒たちの様子をうかがってみると、目を閉じて首を垂れ…

番外05.とある日のキラ

夕暮れ、ざわつく雑踏を一人歩く。次々とすれ違っていく人の顔を眺め、呼び込みの声を聞き流し、オレは思考をかき消していく。 休日の度に、これといって用がなくても商店街へ歩いて来ていた。無心で歩くことで、頭をすっきりさせるために。部屋で勉強をする…

番外04.シザーの帰省

噂話と陰口の境界とはどこだろう。 晩飯を掻き込んで適当に咀嚼し、飲み込んでいく。早くこの食卓から離れたかった。これが俺の「家庭の味」という思い出になるのかという考えがふと頭をよぎると、どんどん味はわからなくなっていった。 「ああやだ、隣の奥…

番外03.ネビュラの社会勉強

無事に、誰にも見つからず家を抜け出すことに成功した。 茂みから顔を出し、周囲を確認してから立ち上がる。全身に葉っぱが付きまくるのが難点だけど、このルートはこれからも使えそうだ。あ、初めて通ったときは早速キラたちに見つかったけど、あれはたまた…

番外02.ネフィリーの花壇

小さなポケットが沢山付いたデニム生地のリュックサックを背負って、箒に跨り校舎へ向かう。中身はタオル、軍手、ビニール袋など。側面の網ポケットにはコンパクトな水筒を差してある。昨日、花壇の様子を見に行った時に雑草が増えてきたように感じたから、…

番外01.とある日のエレナ

空になったアルミ缶。新品の割り箸四組。メモ帳と、カラーマーカー数本。机の上にごろっと並べて、さあ準備は万端! 開け放った窓から吹き込む淡い風が心地よくて、わたしは目を細めうーんと体を伸ばした。夏の夜は、日中とは全く違う顔を見せてくれる。星が…

22話から50話まで

「架空の国・スズライトでの群像劇」 :これまでのあらすじ: 創世紀と呼ばれる太古の時代から名を連ね、国そのものと同じ名を冠する名家がある。それはスズライト家。商店街の喫茶店でウェイトレスをしている少女・ティーナと知り合ったことをきっかけに、…

50.雫と波紋(2)

シズクと呼ばれた女の子は、正面で瞳を揺らし狼狽するミリーの方を真っ直ぐに「見て」います。二つのシュシュで結わえてお下げにした亜麻色の髪と花の形のブローチは年相応に可愛らしく、両目の上から巻かれた包帯の違和感を一層大きくしていました。「ママ…

49.雫と波紋(1)

コンコンと扉をノックします。「キラいるー? ルミナです、助けてー」 壁の向こうで椅子を引いた音がした後、白いTシャツ姿のキラが出てきました。私の訪問は想定済みだったのか、全く動じていない様子です。「……宿題写しに来たのか」「はい……」 こちらの方…

48.いつかまた逢う日を

「えー、もう帰っちゃうの? おやつと夜も食べていけばいいのに。泊まったっていいのよ?」 「えっ、でも、急に来てそれは悪いよ……」 「ネビュラの言うことはお気になさらず……。ですが、ルミナさんさえよければ、是非またお越しくださいね」 帰りには姉妹二…

47.踏み出す一歩

リアスさんに案内されながら、先程の客間へと戻ります。 扉側に背を向けてソファに腰かけた黒髪の人影と、片足をぶらつかせてその背もたれの後ろから身を乗り出しているネビュラがいました。ネビュラは私たちに気が付くと、振り向きながら少女の肩をポンポン…

46.月のお姫様(2)

初めはただ漠然と、何かを感じるだけだったこと。いつしかそれが黒く見えるようになり、人の苦しい気持ちや辛い気持ちなのではないかと思うようになったこと。常に見えているわけではなく、いつも突然現れたり消えたりするのだということ。私以外には見えて…

45.月のお姫様(1)

古めかしくも美しい洋館が、門から数メートル先にそびえ立っています。その壁はまるで城壁のようです。石造りの塀と、大人の頭上をも超える高さの黒い鉄柵が広大な庭園をぐるりと囲っています。両脇は妖精の森に面していて、清涼な空気が漂っているようでし…

44.少年の憂鬱

「まあ! 親の馴れ初め話? 素敵じゃない!」 隣を歩いているエレナが、興味津々といった様子で瞳を輝かせて振り向きました。数日ぶりに顔を合わせた彼女は、ほんのりと肌が焼けています。いつもは下ろしているセミロングの茶髪をレモン柄のシュシュで涼しげ…

43.今、そこにある魔法

「ルミナ、君のお母さんは魔法使いなんだよ」 「まほーつかい?」 「そう。魔法使い」 コンソメの香りが満ちる部屋で、私は絨毯の上にぺたんと座り込んで絵本を広げていました。父が、鍋をゆっくりかき混ぜている母の背を見ながらそう耳打ちします。開いてい…

42.Don't memorize,don't forget.(5)

最初、ゼクスだと思った。そう願ってしまった。その望みはすぐに打ち砕かれ、僅かでも期待してしまったことに後悔する。 「どうしましたか?」 凛とした女性の声。優しく扉を閉める音、近づいてくる気配。倒れたまま動かない私の後方で止まると、顔を覗き込…

41.Don't memorize,don't forget.(4)

晴れてよかった、とゼクスが明るく呟いたが、言うほどの晴天ではない。枝と雲の切れ間に太陽を探して方角を確かめると、私たちは南を目指して、白く靄がかかる森の中を歩き出した。 眠っている間に、私にかけられていた魔法の効力は切れたようだ。早朝の空気…

40.Don't memorize,don't forget.(3)

お喋りな男がいなくなって、辺りがシンと静かになる。焚き火が照らす輪の外は、相も変わらず真っ暗だ。冷気が体の表面を滑っていく。木枯らしに辺りの木々がざわめいた。 暗がりの奥から、紅蓮の瞳が私を突き刺している。 大きくかぶりを振り、鳥肌立った体…

39.Don't memorize,don't forget.(2)

火を起こす音、それと明かり? 体の正面に仄かな暖かさを感じて目を開くと、薪が燃えていた。 私は足を投げ出して、何かに寄りかかっている? 首を回そうとすると、それより先に革のジャケットが目に入った。上体に見慣れない上着が被せてある。後ろにあった…

38.Don't memorize,don't forget.(1)

どこに目を向けても、花が咲いている。棚の上にはツバキが。机の上にはホワイトリリーが。ベッド横のサイドボードにはコミナライトが。天井まで伸びた蔓の先にはアサガオが。窓辺にはリィムローズが。その向こう側にも更に多くの、数えきれないほどの花々が…

37.花のともしび

廃坑を通り抜け再び集合した私たちは、開けた空き地で輪になっていました。 新月の夜空の下、輪の中心で周囲を照らす魔法の火の玉が一つ。それから、皆の手元で色とりどりの花を咲かせている飛沫が一房ずつ。火薬を詰め込んだ包み紙の先端に火を付け、飛び散…

36.肝試し〜サラサラ銀髪な彼の場合〜

* * *「お前、くじに妙な細工しただろ」 「さあ、何のことかしら?」 ペアを確認した時からずっと頭にあった疑惑を、ストレートにぶつけた。 当人はしらを切っているが、あのくじ引きに意味などなかったはずだ。頭の中では初めから誰と誰を組ませるか決め…