創作小説公開場所:concerto

バックアップ感覚で小説をアップロードしていきます。

[執筆状況](2023年12月)

次回更新*「暇を持て余す妖精たちの」第5話…2024年上旬予定。

110話までの内容で書籍作成予定。編集作業中。(2023年5月~)

93.トワイライト(1)

私が一人で講堂へ向かって、少し後にネフィリーも教室前から移動します。ミリーへの差し入れ用に、別のクラスの模擬店で冷たいジュースを買って戻ってきました。 ミリーの当番の時間は残り僅かになっています。しかし列はまだ続いていて、賑わいにつられて見…

92.跳ね回る偶像(2)

教室の前の立て看板には、ミリーがフロアを担当する時間帯が大々的に宣伝されていました。パンフレットの案内や当日の客引きにも彼女の名は存分に使われており、このクラスの最大の売りであったと言っても過言ではないでしょう。当初ミリーは受付で来場者と…

91.跳ね回る偶像(1)

昇降口まで連れてこられたシザーは、乱暴にガツガツとつま先を床に叩きつけて靴底に付いた砂を払います。ティーナはもう一度スリッパに履き替え、仁王立ちでシザーを待ち構えて見張っていました。その様子を、顔見知りの生徒が通りすがりに好奇の目を向けて…

90.探し人たち

シザーが迷子の少年を捜しに向かったのと同時刻。 昼食と休憩のために、ティーナは校舎三階の模擬店へ来ていました。一つ上の学年のクラスで、特徴的なテーマや凝った内装をしているわけではないけれど、豊富な種類の軽食を用意している飲食スペースです。 …

89.マリーゴールドは風を起こす

遊び終えた後もティーナはしばらく教室に残って、手が空いている私たちと雑談をしていました。クラスメイトの中には以前からティーナを知っていた人も何人かいて、商店街では少し有名なのだとエレナが話していたことを思い出します。 成績優秀者の飛び級制度…

88.空の器を満たすように

交代の時間には間に合いました。あまり忙しそうでもなく、和やかな様子です。安心してクラスメイトと当番を入れ替わります。 ほどなくして、ティーナが来店しました。 「ルミナー! 遊びに来たよ!」 「早いね! いらっしゃいませ!」 いつものようにリボン…

87.暗闇の記憶

何も起こらなかったこと、誰かがピアノを使用した形跡もなかったことを報告して、安堵する人もいれば釈然としていない人もいたようですけれど、ひとまずお化け屋敷の営業は再開されました。 「ほらな! もう何もないってよ! ……そっ、そんなこと言ったって、…

86.踊る鍵盤

どこに向かうでもなく校舎をぶらぶらと渡り歩き、次に目に留まったのはお化け屋敷でした。三階の角の奥まった場所にあり、普段は音楽室です。 壁に貼り付けた段ボールに描かれているのは石造りの城壁で、足元には血のように真っ赤な花と墓標もあります。至る…

85.実った蕾は膨らんで

「四等賞はこちらをどうぞー。それとこっちが参加賞でーす」 「意外と難しいね! もっと沢山取れると思ったんだけどなぁ」 教室後ろのロッカー上に並べた景品の中から、お菓子の詰め合わせ袋と色紙で作った勲章を受け取ってミリーははにかみます。他にお客さ…

84.彼女の隣の陽だまりへ

廊下には各教室の宣伝ポスターがぺたぺたと貼りつけられていて、その壁際で立ち止まり買い食いをしている生徒の姿が多く見られます。たこ焼きの入った容器を手にしている人もちらほらと目に留まり、自分たちのクラスに行ったのだろうかとエレナは想像しまし…

83.学園祭の始まり(2)

校外からの来客を案内する学園祭実行委員の生徒は、各クラスTシャツではなく制服を目印として着ています。エレナは朝一番の案内係を担当するので、正門の横に設営された小さなテント付きの受付席で待機していました。 群青色の屋根が日光を遮り、ちょうどい…

82.学園祭の始まり(1)

正門の前に大きな風船のアーチと柱が立っています。 校庭の外周に沿うように複数の屋台が並び、屋根がカラフルです。 三階の窓からは各クラス手作りの垂れ幕がかかり、ガーランドも吊るされていて、壁沿いには立て看板がずらりと並んでいます。 校内にも風船…

81.日暮れに想う

学校の中へ戻ったレルズがその後どんな行動をしたのか、私は知りません。何を決意し、誰に、どのような想いを伝えたのか、私の知るところではありません。 恐らく、関係のない私が口を挟むのも野暮というものでしょう。それは私が知らずとも良いことであり、…

80.太陽の君(2)

ミリーちゃんを連れて、音楽室へ行くときに通ったのとは反対の階段から二階に上がる。 作業をしている他のクラスの前はササッと足早に抜けて、誰もいない教室の中に入ってすぐに扉を閉めた。反対の窓のカーテンも閉める。全部閉めたら薄暗すぎたから、一箇所…

79.太陽の君(1)

* * * 校舎の外壁に付いている時計を見上げると、まだ五時前だった。この時間なら、きっとまだみんな作業を続けてるはずだ。 来た道を戻って内履きに履き替え、校内に戻り三階の音楽室を一直線に目指す。L字を描く階段を駆け上がっていくと、教室に近付…

78.青いかがり火(2)

レルズは体勢を整え、改めてスティンヴのぶすっとした表情に目を向けます。二人とも、これといって何も言いません。ただ一息を吸って吐くと、レルズはスティンヴの横にゆっくりと座りました。 しかし、しばし目を泳がせ、ぱくぱくと口を小さく開けたり閉じた…

77.青いかがり火(1)

エレナたちが掃除をしていた音楽室の時間を少々、およそ三十分遡ります。 たった数分間の、ささやかな出来事。 どこのクラスも学園祭準備を行っていた時間のことです。 音楽室へ向かっていく、二人の人影がありました。二人は長机を協力して持ち、床の段差に…

76.世界はウソに溢れるが故に(2)

ゴミ捨て場の場所は、書庫がある離れの塔の裏手です。屋外に古びた焼却炉が設置されています。 廊下の突き当たりにある勝手口から中庭に出て、校舎の壁沿いにズカズカと大股で進んでいたシザーは、その曲がり角でルベリーと鉢合わせました。彼女が運んでいた…

75.世界はウソに溢れるが故に(1)

それからまた二、三日が経過して。エレナたちは掃除のために音楽室へやってきました。 扉を開けると、窓に暗幕が取り付けられていて真っ暗です。熱がこもって少々蒸し暑く、生ぬるい空気が廊下へと流れ出てきます。 「わ、暗! 開けよ!?」 「閉めっぱなし…

74.もうすぐ

静かな、授業中の教室。チョークが黒板を叩く硬い音と、鉛筆が紙をこするひそやかな音が交わり合っています。 地学の男性教諭が黒板に板書をしていて、生徒たちはそれを黙々とノートに写していました。シザーだけは相変わらず、机の上に一切教材を置かず先生…

73.嘘を嫌ったウソツキの告白

一日の営業時間を終えて照明を落とした喫茶店は、その内装と相まって静まり返る夜の森のようでした。レジとカウンターの傍だけに明かりが灯っており、その二ヵ所で二人の人影が最後の後片付けをしています。一人はパフィーナさんで、もう一人はティーナでし…

72.隠し事

私は一人、学校から真っ直ぐに商店街へと向かっていました。喫茶店でティーナに会い、メアリーへ手紙の返事を伝えたと報告するためです。 ティーナとは、彼女のバイト先へ行くこと以外にコンタクトを取る手段がありません。これまでも何度か会いに行ってはい…

71.知らず知らずに

それは、特別な物語。 ミリーの心の最も深いところに仕舞われた、ガラスのように割れやすい繊細な感情で彩られた思い出でした。 時折、涼やかな夕暮れの風が吹いて静かな泉の水面に波を立て、木々がさわさわと揺れます。 広大な森の中の小さな泉のほとりで、…

70.singer(2)

一歩を踏み出すきっかけになったのは、シズクちゃんだった。 本当の願いを押し殺して、歌っちゃいけないんだと思い込む一方で、このままじゃいけないってこともずっとわかってた。ワタシの歌を待ってくれている人はクレアの他にも沢山いて、その人たちに嘘を…

69.singer(1)

ワタシは歌が好きで、歌っているときは本当に幸せだった。 今でこそ、そう自覚している。 でも元々は、そんなに好きだったわけじゃないんだろうな。ワタシが歌うとみんな褒めてくれるから――クレアが喜んでくれるから嬉しかった、ってだけで。 クレアに届かな…

68.pianist(3)

夜、自室のベッドの上で楽譜を繰り返し捲って、キーボードの音色を思い出しながらハミングする。最後の一枚に貼られたドット柄の付箋と「誕生日おめでとう!」のメッセージが目に入る度に、嬉しさで胸の奥がこそばゆくなった。 三週間先のクレアの誕生日のお…

67.pianist(2)

病院の場所を聞いて、翌日の朝一番に家を飛び出した。風を切って空を飛び、空気の綺麗な港町の”丘の上”にあるという真っ白な建物を目指す。 一ヶ月も前? 入院なんて、聞いてない! あんなに手紙くれてたのに、そんなの一度も書いてなかったじゃん! どうし…

66.pianist(1)

* * * 大切な友達がいたんだ。 名前は、クレア。 クレアは実家の隣に住んでた女の子。音楽が大好きで、ピアノがとても上手な子だった。 仲良くなったのは七歳の頃だったかな。 壁の向こう側から聞こえてくるピアノの音が気になって窓を覗いてみた、ある日…

65.噂と真実

静かな室内に、パサリと、ページを捲るひそやかな音だけが繰り返されていました。バレッドさんは読みかけの雑誌を再び手に取って、彼女たちがやってくる前の様子にすっかり戻っています。彼が出現させた大量の雑誌は全てパリアンさんによって拾い集められ、…

64.導くは鎮魂歌

パリアンさんはよく子供っぽい振る舞いをするのですけれど、やはり、私たちよりもずっと大人でした。時々妙に含みのあることを言って、澄んだ光をその緑の瞳に宿します。そんな彼女の目に、ミリーは惹かれていたのでしょう。 翌日ミリーはもう一度店頭へ足を…